第3回 小松寅吉・小林和平作品ツアー 12

福貴作 小松家の墓

小松家の墓誌



ここに「利平布弘」が入るはずだと説明する吉田さん
福貴作公民館には、寅吉が制作途中で破棄した不動明王像が掘り返されて置かれていますが、そのすぐそばの山の中に小松家の墓があります。
利平の墓
寅吉についてはその後、吉田さんや吉田さんのお仲間で、寅吉と同じ福貴作在住の郷土史家・我妻正一さん、寅吉の直系のご子息・小松利平さんらからの情報により、いろいろなことが分かってきました。
利平の墓
まず、寅吉は高遠石工であった小松家と血のつながりはなく、21歳のときに養子として小松家に入っているという事実が分かりました。
寅吉は弘化元(1844)年6月6日、石川郡山形村の農家高原家に次男として生まれています。どんな少年時代を過ごしたのかは不明ですが、慶応2(1866)年2月18日、小松家に養子として迎えられます。
高遠石工の系譜である小松家の系図としては、
小松利右衛門─理兵衛布孝─利平布弘─彦蔵
と続いており、高遠藩を脱藩して福貴作に住み着いたのは利平布弘。寅吉はその息子・彦蔵の養子として小松家に入りますが、彦蔵は天保9(1838)年前後の生まれであり、弘化元(1844)年生まれの寅吉とはそれほど年が離れているわけではなく、実際には親代わりは利平布弘だったと思われます。
寅吉が小松家で石工修行を始めたのは、養子になるよりもっと前だったかもしれません。少年寅吉の非凡な才能と強い気性に惚れた利平が、寅吉が成人した後、息子・彦蔵の養子にする形で、小松家の将来を寅吉に託したとも考えられます。
自分の養子にせず、息子の養子にしたのは、あくまでも自分の次の家督は実子・彦蔵に継がせるが、石工として大成するであろう寅吉には早くからその自覚を持たせ、石工としての小松家の将来を盤石なものにしたかったのではないでしょうか。それだけ寅吉の才能は頭抜けていたのでしょう。利平の父親・理兵衛布孝の「布孝」を継がせたことでも、その期待の大きさが分かります。
小松家の墓には、真新しい墓誌がありますが、なぜかその中には利平布弘の名前がありません。
しかし、墓地の中を探すと、単独で「理兵衛布弘墓 行年八十五歳」と刻まれた小さな墓石があります(写真左)。

墓の横には「明治二十六年旧十月十五日八十四歳 孝子 小松彦蔵布重」と刻まれています。つまり、理兵衛布弘は明治26年に84歳(数えで85歳)で亡くなった。その墓を息子の彦蔵布重が建てた、ということでしょう。明治26(1893)年に84歳ですから、生年は1809年(文化6年)前後。年代から考えて、これは「利平布弘」のことでしょう。利平は晩年、あるいは没後に先祖の「理兵衛」を襲名したと考えれば、まさにこの墓石こそ、恐らく八幡神社の波乗り兎(天保14=1843年)の作者である幻の石工・小松利平布弘のものだと思われます。
利平と思われる墓石
さらに墓地内を見ると、利平が高遠から持ってきた、あるいは福貴作にひっそり移り住んだ後に建てたと思われる先祖利右衛門の墓石もありました(写真右)。

利平布弘がどんな思い、あるいは事情を抱えて高遠藩を脱藩し、福貴作に住み着いたのか、今となっては知るよしもありませんが、21歳で小松家の養子に迎えられた寅吉が、利平に見込まれ、徹底的に石工修行をさせられたことは間違いないでしょう。
石工・利平布弘は、この南福島の地で見いだした寅吉という青年に自分の夢を託しました。
寅吉が作品に、「福貴作石工小松布孝」と誇らしげに自分の名前を刻むとき、それは高遠藩脱藩者であったがゆえに、一生涯身を潜めるように生きなければならなかった石工・利平の無念を晴らすことでもあったのかもしれません。
「寅吉」は実の親からもらった大切な名前。「布孝」は高遠石工小松家を自分が正式に受け継いだ証。
小松寅吉布孝は、生涯、この二つの名前の間で、自分のアイデンティティを確認し続けていたような気がします。
小松家の墓 
最近になって建てられた小松家の墓石は、寅吉が得意とした「下に亀」の構図ですが、ぴかぴかの御影石でできており、なんとも無邪気というか、石工・寅吉のあのすさまじいこだわりぶりを思うと、ちょっと苦笑してしまうような、複雑な思いにかられますね。

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