神の鑿(のみ) 寅吉・和平の世界

寅吉・和平の世界6

 2004年3月、石川町沢井に住む吉田利昭さんというかたからお手紙をいただいた。
 封筒に書かれた住所を見たときから、和平のことだなとピンときたのだが、その通りだった。
 やはり、和平の作品は他にもあるらしい。また、和平の師匠である小松寅吉という石工のことも書かれていた。
 小松寅吉もまた「奥州一の彫刻師」と称される名工であったとか。

 今回、吉田さんからの情報で、以下のことが分かった。

 小林和平の生涯

小林和平 明治14(1881)年7月13日、石川町沢井に、小林悟三郎・クラの次男として生まれる。
12歳の頃、浅川町福貴作に住む石工・小松寅吉布孝(とらきちのぶたか)に弟子入り。明治42(1909)年(28歳前後)頃に独立。
棚倉町一色より妻・ナカを迎えるが、実子3人はみな夭逝(長男が3歳、次男が1歳、長女が16歳で死去)。
和平の妻・ナカの姪の夫・近藤實を養子に迎える。實には、長男・登、次男・和喜、三男・和美の3人の男子が誕生(和平にとっては孫)。
實は石工を継がなかったが、孫の登と和喜が和平に弟子入りして石工を継いだ。

昭和41(1966)年3月8日没。享年86歳。

 ……ということは、和平の最高傑作ではないかと思われる石都都古別神社、古殿八幡神社の狛犬は、50歳前後のときに彫ったことになる。
 和平の作品から狛犬だけを拾って列挙すると以下のようになる(制作年順、年齢は満年齢。後から分かったものも含む)。

●石川郡石川町 石都都古別神社 昭和5年 48歳
●須賀川市保土原 保土原神社 昭和6年 50歳
●石川郡古殿町 古殿八幡神社 昭和7年 51歳
●西白河郡中島村滑津 羽黒神社  昭和8年 52歳
●東白川郡棚倉町一色(いしき) 鐘鋳(かねい)神社 昭和9年 53歳
●石川郡石川町 王子八幡神社 昭和14年 57歳
●石川郡石川町 石都都古別神社御仮屋 昭和14年(大竹俊吉と連名) 57歳
●石川郡石川町赤羽 赤羽八幡神社 昭和22年 66歳
●石川郡玉川村川辺 正八幡神社(阿のみ) 昭和36年 79歳

 また、孫の登(当時34歳前後)が和平の指導を受けながら彫った狛犬として、
●西白河郡矢吹町中畑字根宿 八幡神社(吽のみ) 昭和38年 和平82歳
がある。

 吉田さんからいただいた情報からは、和平のまだ見ていない狛犬だけでなく、和平の師匠である小松寅吉という石工の存在を知ったことも大きかった。
 寅吉の細かなプロフィールは後に譲るとして、ここでは大まかなことだけを列記してみる。

 小松寅吉布孝の生涯

小松寅吉 弘化元(1844)年、石川郡山形村(現在は石川町に合併)の高原家に生まれる。
慶応2(1866)年、21歳のとき、高遠藩から欠落(かけおち=藩の縛りを捨てて他所に逃れ、住み着くこと)してきた(と思われる)代々石工の小松家に養子として迎えられ、石工としての修行を受ける。「布孝」は小松家から授かった名。
大正4(1915)年2月22日没。享年72歳。
長男・小松亀之助布行(のぶゆき)が石工を継ぐが、布行の代で石工稼業は途絶える。

 小松寅吉布孝・布行父子の作品としては、大田原市(栃木県)郊外の西郷神社社殿をすでに見ており、その技術の高さに感嘆していた。当初、この社殿が小松父子の作品だとは気づかなかったのだが、今回、寅吉の作品群を見て回り、納得した次第だ。
 寅吉は狛犬をはじめ、観音像や灯籠、門柱、社殿、墓石(それも並大抵のものではない)など、数多くの石彫刻作品を残している。相当な負けん気と凝り性の持ち主だったようで、これでもかというほどの技術を誇示するスケールの大きな作風には圧倒させられる。
 2004年は、吉田さんからの情報を得たため、夏までの間に6回、南福島の地を訪れた。
 そのときの様子は
こちらこちら
に詳しく記したので、ここから先は、現時点(2004年8月)までに分かっていることをまとめて、寅吉・和平の世界を年代順に改めてまとめていこうと思う。


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