神の鑿(のみ) 寅吉・和平の世界

寅吉・和平の世界3

石都都古別神社(前ページからの続き)

 本殿まで登ってみた。
 参道にはこんな風に、巨石がごろごろしている。
参道
 いわゆる石座/磐座(いわくら)。神が宿る石。神が降りる石。まさに霊山の雰囲気が漂う。
石塔
 山頂に本殿があり、その裏に、石塔があった。見上げると、てっぺんにはなにやら生き物の顔が……。
 龍だ。龍が石塔に巻き付いている図。
 もしやこれも……?
 と思って裏に回ると、案の定……。
 沢井 石工 小林和平 と誇らしげに刻まれている。
 和平は、五重塔を依頼されても、ただの塔では気が済まないのだろう。必ず何かしてみせる。
 このときはそう思って、半ば呆れて見上げていたが、実はこの「ただでは終わらせない」という凝り性は、師匠・小松寅吉譲りであったことが後になって分かる。
 建立は昭和13年となっていた。狛犬より8年後だ。
 後で知ったことだが、この五重塔を建立後、石川町を大きな地震が襲ったが、この五重塔はびくともしなかった。
 和平は、「どうだ。俺の造るものはあの程度の地震にはびくともしない」といばっていたそうだ。
 倒れないのも凄いが、それ以前に、これだけのものを山の上に持ち上げ、立てる技術も並みではない。今のような重機はない時代なのだ。

 降りてくると、入り口の狛犬を裏側から見ることができる。この図もすごい。ああ、家が邪魔だ。
裏側から
 暗くなり始めてきたので、最後に古殿八幡神社に向かおうと車を出したところ……あ! まだいる。
なんと、参道が川向こうまで続いていて、そこに別の狛犬がいたのだ。
 

 しかしこの狛犬、参道入り口の狛犬に比べるとあまりにも普通だ。
 台座を見ると、昭和14年建立で、石工名は大竹俊吉、小林和平の連名になっている。
 先に大竹俊吉とあるので、大竹俊吉は小林和平の師匠かとも思ったのだが、だとすると年号が新しいのはおかしい。
 後になって分かったことだが、この場所は「御假屋(おかりや)」と呼ばれ、神様をお迎えする場所。このほんの目と鼻の先に「大竹石材店」が今もあることを、このときは見逃していた↓
大竹石材店


 つまり、大竹俊吉は台座石組み部分を担当して、狛犬は和平が彫っていたのだろう。「地元の石屋」に花を持たせて、先に名前を彫ったのかもしれない。
 後に知ったことだが、和平は、普通に蹲踞している狛犬を「こまいぬ」、参道前の狛犬のように疾駆しているものを「獅子」と呼んでいたそうだ。
「俺が造るのは獅子だ」と誇らしげに言っていたそうで、ということは、蹲踞スタイルの普通の狛犬は、依頼の時点でそのように条件を付けられていたに違いない。「俺が造るのは獅子だ」という和平にとって、「普通の狛犬」の依頼は依頼者の意向を尊重し、奇抜なものにはしなかったのだろう。

■Data:石都都古別神社(福島県石川郡石川町下泉296):
龍が巻き付く石の五重塔
ο建立年月・昭和13(1938)年1月1日。ο石工・小林和平。
御假屋の狛犬
ο建立年月・昭和14(1939)年1月。ο石工・大竹俊吉、小林和平
「戊亥会初老記念」
ο撮影年月日・03年1月22日。

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