寅吉・和平の世界10
飛翔獅子の発明
寅吉の狛犬の中で、特筆すべきなのは「飛翔獅子」タイプである。まるで空を滑空するかのような大胆な構図のもので、最初に登場するのは川原田の天満宮の狛犬(明治25年)である。
ご覧のように、後ろ脚は高く蹴り上げられ、台座方向についていない。
江戸唐獅子の系譜の最後のほうに、いわゆる「獅子山」と呼ばれるものがある。石組みやコンクリートで築山を造り、その上に獅子を配置するというもので、江戸唐獅子タイプの豪華版という位置づけができるだろう。
しかし、獅子山ではあくまでも唐獅子と下の築山は別々に造られている。この川原田天満宮の狛犬は、下の部分と上に載っている獅子が同一の石から彫られているのである。その点、獅子山タイプとは明らかに別物と見ることができる。
また、下の部分は「山」というよりは「雲」のようにも見える。
おそらく寅吉は、後ろ脚を蹴り上げて空を飛んでいるかのような構図を考えたが、それを台座の上に成立させるためには蹴り上げた後ろ脚を支えるものが必要であり、それが単なる台座の出っ張りでは面白くないと考え、雲のようなものをしつらえ、唐獅子と組み合わせる定番の牡丹の花なども添えて、見た目を豪華に、かつ、違和感なく仕上げたのだろう。
このような「飛翔獅子」が、日本全国規模では他にいくつも存在するのかどうか、また、存在したとして、最初に考え出したのは誰なのか、私は浅学にして今のところ確認できていないが、もしかするとこれは寅吉のオリジナルなのかもしれない。そうであるとしたら、大変なことだろう。
この飛翔獅子は、翌明治26(1893)年9月建立の鹿嶋神社の狛犬で、さらに完成度と迫力に磨きがかかる。
鹿嶋神社の狛犬以降、寅吉の飛び狛犬は今のところ見あたらないのだが、この狛犬は、寅吉が情熱をほとばしらせた明治20年~30年代の作品群の中でも、最も重要かつ評価されるべき作品だろう。
鹿嶋神社は社殿の木彫が町の文化財に指定されているようだが、この希有にして壮大な狛犬に関してはまったくといっていいほど関心が向けられていないようだ。信じられないことである。
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