神の鑿(のみ) 寅吉・和平の世界

寅吉・和平の世界1

小林和平との出逢い

 狛犬に興味を持ち、全国の狛犬を撮影し始めて、はや四半世紀が経つ。この間、様々な狛犬に出逢ってきたが、常に新鮮な興奮を保ち続けられたわけではない。飽きることもあれば、狛犬趣味そのものに疑問を持つこともあった。
 当初(二十代半ば)は、狛犬を単純に写真の被写体としてとらえていた。造形が面白い狛犬、生き生きとした狛犬に出逢うだけで満足できた。その狛犬が、いつ頃、誰によって作られたかというようなことまでは思い至らなかった。
 やがて狛犬の写真が増えるにしたがって、いつどこで撮ったものなのか分からなくなってきた。データを整理する必要上、写真を撮るとき、最低限度、台座に刻まれた建立年や石工名などを記録するようになった。それからは、狛犬が誕生した背景にあるドラマを想像することで、楽しみが増えた。
 しかし、データ集めには落とし穴がある。そのうちに、データの数や、数字の価値(建立年の古さなど)にばかり気を取られ、無心に狛犬に向かうことができなくなるのだ。
 狛犬の写真を撮り始めたときの感動はなんだったのか。狛犬のよさとはなんなのか。なぜこんなことをしているのだろうか……。
 ちょうど私生活の上でも困難な時期を迎え、次第に狛犬から足が遠のいていった。

 そんなとき、旅行雑誌「るるぶ」の「常陸 那須 南福島99」を見ていて、不思議な形の狛犬を見つけた。福島県の南端にある古殿町の紹介ページ。三つしかないトピックスの一つが古殿八幡神社だった。その写真(5×4cmほどの小さなもの)に狛犬が写っている。それが実に奇妙な形をしていたのだ。
 早速この狛犬を見に行った。1999年12月19日のことだった。(その行程はこちらに掲載

 古殿町は遠い。白河市─棚倉町─鮫川村─石川町とたどって古殿八幡神社に着いたときは、もう日没寸前だった。
こんなにでかい
↑まず、でかさにびっくり。このくらいでかい。

 一目見るなり、身体中に衝撃が走った。なんなんだこの狛犬は! 世の中にこんなすごい狛犬がいたのか……。
 建立年は昭和七年。狛犬愛好者の中には、昭和の作品というだけで興味を示さない人もいる。しかし、この狛犬は、そんな偏見がいかに馬鹿らしいかを如実に教えていた。
  

 このように↑形も実に不思議。台座を一体化し、獅子山風に仕立てている。瘤や髭の表現も巧み。構図もユニーク。特に吽のほうは、腹の下と顔の横に2匹の子獅子を伴っている。
 見る角度によって、表情も全体のシルエットも大きく変わる。


↑吽の顔。平べったい愛嬌のある顔だが、決して「へたうま」ではない。



↑吽の顔の横には、子獅子がもう1匹戯れている。


台座には「満州事変皇軍戦捷記念」と刻まれている。
 台座に刻まれていた石工の名は小林和平。地元の人間らしい。
 一世一代の大仕事で、これほどユニークな作品を作り上げる度胸は大したものだ。それともこれはどこかにモデルがあるのだろうか?
 これだけのものを彫る石工なら、きっと他にも作品があるに違いない。この地への再訪を誓い、帰路についた。
■Data:八幡神社(福島県石川郡古殿町)。ο建立年・昭和7(1932)年10月15日。ο石工・石川郡沢田彫刻師小林和平。撮影年月日・1999年12月18日。


 これが私と小林和平の初めての出逢いだった。しかしこれは、序章にすぎなかった。
 5年後に、和平とその師匠・小松寅吉の世界を世に伝えるべく自費で冊子を作り上げるなどということは、この時点では夢にも思わなかった。

 冊子『神の鑿』は、2004年6月に初版60部を作成し、狛犬愛好家などに無料で配った。
 その後、反響が大きかったので、改訂第2版を急遽100部作成し、石川町近辺の教育関係者などに謹呈するとともに、希望者には有償配布した。それもなくなり、以後、改訂第3版、第4版……と続いている
 より多くの人に知ってもらうため、今までバラバラに掲載してきたページなどをまとめる形で、このコーナーを作ることにした。
 新たな事実や作品が分かる度に、内容は少しずつ改訂されていくだろう。



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