狛犬分類研究(8) 備前

左:蒼柴神社(新潟県長岡市御山町悠久山公園内) 大正8(1919)年
右:白山神社(新潟県新潟市一番堀通町)大正6年(1917)
 備前焼の狛犬については相原武弘さんが著した『備前焼の狛犬 全国の備前焼き狛犬を訪ねて』(日本文教出版)という大変立派な本があります。備前焼狛犬は日本全国どこにでもあってみんな似たようなものだと思っていましたが、意外と数は少なく、所在地に偏りもあるらしいことが分かります。
 焼き物は型を作ると同じものをいくつも作れるため、形状は似かよってきます。耳は垂れ耳で後ろに流れているものがほとんどで、尾はスッと上に立つ蝋燭型。吽像に角のあるものとないものが半々くらいでしょうか。角が折れてしまい、一見して角なしに見えるものもあります。
内陣に置く小型のもののルーツは1600年代だということですが、参道狛犬として大型化して登場するのは文化文政時代あたりからのようです。
焼き物で壊れやすいため、戦争や地震でかなりの数が消えたと思われます。現在ではほとんど作られていないようなので、今、残っているものは大切に残しておきたいものです。

狛犬分類研究(9) 岡崎現代型

 「狛犬なんてみんな同じでしょう?」と言う人の多くは、おそらくこのタイプの狛犬を頭に思い浮かべているはずです。それほどこの狛犬は日本全国に多数建立されています。
 石工の町・愛知県岡崎市で大正時代に生まれました。生まれたというより「発明された」というべきかもしれません。
 神殿狛犬の様式を現代風にアレンジしたもので、デザインとしてはある意味傑作です。しかし、あまりにも数多く作られたため、完全に食傷した狛犬ファンからは「しょうわ」(命名・三遊亭円丈氏)とか「こまやん」(命名・小寺慶昭氏)などと呼ばれ、嫌われています。神社を訪ね、この狛犬に出迎えられると、ついつい「あ~あ、またこいつか」と愚痴りたくなるわけです。
 この岡崎現代型の生みの親といわれている石工・酒井孫兵衛(6代目)は、明治、大正期に活躍した岡崎石工です。作り方を岡崎の石工仲間に公開したため、またたくまに広まり、気がつくと日本中を席巻していました。
 酒井孫兵衛については、同じ岡崎市で今も石工をされている綱川潔氏の調査報告が貴重です。このページで使わせていただいている貴重な写真も、綱川さんにお願いして、提供していただきました。

 現在では、日本国内に建立される狛犬のほとんどは中国製で、中国の石によって中国の石工が大量に作っています。中国製の岡崎現代型も多数ありますし、最近では中国製特有の風貌というものも現れてきました。
 中国から入ってきた獅子像から生まれた日本独自の狛犬という文化は、こうしてまた中国に戻っていくことによって、幕を閉じたかのようにも思えます。


琴平神社(東京都八王子市)。昭和53(1978)年


 これが「岡崎現代型」。日本全国どこにでもあるが、最近では中国製狛犬に追いやられつつある。50年後に狛犬の研究書が出れば、「平成に入ってから急速に消滅した」などと書かれているかもしれない。

金石神社(愛知県西尾市)。明治37(1904)年。酒井孫兵衛

 孫兵衛の初期の作品。全体にずんぐりしており、尾の形以外、まだ岡崎現代型のにおいはほとんどない。
(写真提供:綱川潔氏

伊賀八幡宮(愛知県岡崎市)。大正6(1917)年。酒井孫兵衛

 だいぶ岡崎現代型に近づいた。このスタイルが岡崎市内の石工たちに大きな影響を与え、あっという間に日本全国に広まっていったようだ。
(写真提供:綱川潔氏

魚沼神社
魚沼神社 (新潟県小千谷市)昭和8(1933)年 石工・小林斧七

 小千谷市周辺に多くの狛犬を残している地元の石工・小林斧七。これは魚沼神社にあるもので、斧七最晩年の作品と思われるが、全体の印象は岡崎現代型に近い。岡崎現代型が昭和初期には全国的に流行していた証だろう。
 小千谷市周辺は2004年10月23日の中越地震で甚大な被害を受けた。狛犬もほとんどは台座から落ち、壊れたものも多い。魚沼神社の狛犬も高い台座から落ちて、その後の数十年ぶりの豪雪ですっぽり雪に埋もれ、一冬を過ごした。
雪に埋もれた狛犬
 下の写真は雪解け後に撮ったもの。吽像は後脚上部が欠けてしまったが、ほぼ無事。数百年前の狛犬であれば、こうした危機を何度も乗り越えて今日も参道に座り続けているわけだ。

その他

 広島には玉に前脚を乗せたポーズの狛犬が多く見られます。「広島玉乗り」とでも呼べるでしょう。この形は九州北部あたりまで伝わっています。
 佐渡の狛犬の多くは、頭がヘルメットをかぶったように見え、映画『スターウォーズ』のダースベイダーそっくりです。「佐渡兜」とでも命名したいところ。
 加賀には逆立ち狛犬が多いですし、高知には鬣や尾のカールがソフトクリームのように太く渦を巻く「渦巻き」とでも呼びたくなる特徴の狛犬が多数見られます。
 他にも九州や東北などには、そのエリア独自の個性を強くうかがわせるタイプがいくつも見うけられます。
 よく「沖縄のシーサーは狛犬ですか?」という質問を受けますが、私の答えはYESです。シーサーは陶製のものも多いので、形状が多彩。形状による狛犬の種類として分類してもあまり意味はなく、「独自に発展した狛犬文化の一形態」と考えたほうがいいと思っています。

鷲神社
鷲神社(大分県)

 広島に多い玉乗り狛犬は、九州にまで伝播している。

二宮神社(新潟県佐渡郡佐和田町二宮)。昭和8(1933)年。石工・安藤輝

 スターウォーズのダースベイダーを思わせる。このタイプの狛犬が佐渡島にはたくさん建立されている。
 狛犬を主に形状で分類する研究は、多くの狛犬研究家が進めていますので、これ以上の詳細分類はそうした研究に譲りたいと思います。
 ただ、分類学にハマル前に、まず、コピーなのかオリジナルなのかを見極めることがなによりも大切です。コピーだからダメだというわけではありません。あらゆる芸術はなんらかのコピーから生まれているわけで、狛犬ウォッチングも、コピーの中に浮かび上がる石工の力量や個性を楽しめればそれでよいのです。
 そのためには、たくさんの狛犬を見て、類型がある程度分かるようにしておくといいでしょう。


前へ  

HOMEへ 狛犬ネット入口目次へ

狛犬ネット売店へ
『狛犬ガイドブック』『日本狛犬図鑑』など、狛犬の本は狛犬ネット売店で⇒こちらです


狛犬グッズ売店
TシャツからiPhoneケースまでいろいろ 狛犬グッズ売店は⇒こちら
line用狛犬スタンプ
Line用狛犬スタンプ 販売中