小松寅吉・小林和平の作品を見に行く 6

狛犬探訪をしていると、ときどき腹立たしい光景に行き当たります。
ここもその典型でした。

羽黒神社 (西白河郡中島村滑津)

羽黒神社入り口のおぞましい光景
これですよ、これ↑。
名工・和平の狛犬の前にこれ。なんという失礼。なんという蛮行。
怒りを通り越して呆れ果て、悲しくなりますね。
平成15年10月建立の中国製?狛犬。ごていねいに、宮司や氏子総代6名の他、石工の名前も刻まれていますが、どう見ても、外国の安い石を機械彫り(NCルーター?)しただけの輸入物。これは「彫った」とは到底言えず、なぜこんなものに石工名まで刻んであるのかも不思議ですが(恐らく依頼を受けて「商品」を発注した石材店の社長、あるいは台座を石組みした職人の名前でしょう)、ご当人たちの名誉のために記すのはやめましょう。
問題は、こういうことをして当人たちが「何も感じていない」ということですね。
文化財として保護すべき石の逸品の前に、愚かなものを置いてしまう。それがどれだけ恥ずかしく、自分たちの知性や美の鑑賞眼のなさを露呈しているか自覚できない。
おそらく悪気はまったくないのでしょう。しかし、その無邪気さが、日本中でどれだけの文化財を破壊してきたことか。情けないかぎりです。
羽黒神社 阿
↑阿
羽黒神社 吽
↑吽
建立年は昭和8年。古殿八幡神社の翌年にあたります。
石都都古別神社や古殿八幡神社の大作に比べると小振りで、デザインも変わっていますが、和平狛犬の中ではユニークなものとして注目していい作品でしょう。

本殿前には、狛犬ではありませんが、興味深い作品がいくつか残されています。
羽黒神社の馬
馬像の銘まずはこの馬。
いわゆる「皇紀2600年もの」です。戦時色が濃厚な作品。
「日支事変従軍記念 忠霊」とあり、地元の有力者が依頼して建てたものでしょう。
馬の股間には極めてリアルな男根が刻まれています。
和平がこの作品をどういう気持ちで彫ったのか、非常に興味がわきます。
石工の仕事には必ずパトロン(依頼者)が必要です。村人が大勢集まり、鎮守様に狛犬を奉納するために何年もかけて建立資金を積み立てることもあるでしょうし、有力者が自分の名を末代まで残すために石像を建てることもあるでしょう。
この馬は後者のタイプではないかと思うのです。
もちろん、和平が軍国主義者だったかどうかなど、現時点では知るよしもありませんが、もしかするとこの依頼は気乗りしない部類のものだったのでは? などと想像したくなってしまうのです。
ところでこの馬、脚が妙に短いのですね。折れてしまったのを再設置したのでしょうか。↓
リアルな男根は依頼者が雄々しさを強調するためにリクエストしたのではないかと思います。
馬といえば、師匠の寅吉は、石川町の煙草神社に馬の像を残しています。写真でしか見たことがありませんが、尻尾などが凝っていてなかなかのものです。それに比べるとこの和平の馬はいかにも「普通の馬」ですが、目線に不思議な優しさが感じられるところが救いです。
もうひとつ、変わった灯籠がありました。
てっぺんに狛犬風?の生き物(天の邪鬼?)がのっかっています。
羽黒神社の灯籠 羽黒神社の灯籠の銘

石都都古別神社の五重塔もそうですが、どうも和平は、灯籠や塔の依頼を受けると、頼まれてもいないのに動物を彫ってしまうような気がします。これも師匠・寅吉の影響かもしれません。
ちなみにこの灯籠の台座には、42歳男性と33歳、19歳女性の名前が刻まれています。村の人たちの中で厄年に当たる人たちの厄よけとして奉納されたことが分かります。
昭和19年といえば太平洋戦争まっただ中。42歳男性の息子、33歳女性の夫、19歳女性の兄や恋人たちの中には出征した者もいたでしょう。彼らの無事を祈念したのでしょうね。
しかし、この時期に、よくそんな資金があったものだと驚かされます。それを考えると、この灯籠のてっぺんに飛んでいるような生き物?はなんなのか、ますます気になります。
羽黒神社灯籠のてっぺん


↑厄年の奉納者たち

■Data:羽黒神社(福島県西白河郡中島村滑津):
●狛犬:
ο建立年月・昭和8(1933)年9月9日。ο石工・小林和平。
●馬:
ο建立年月・昭和15(1940)年10月。ο石工・小林和平。
●灯籠:
ο建立年月・昭和19(1944)年1月。ο石工・小林和平。
ο撮影年月日・04年3月25日。

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