第4回 小松寅吉・小林和平作品ツアー 1

大黒像の旅

夏を挟んで、しばらく南福島の地から離れていました。
といっても、今年2004年の春から夏までだけで郡山や白河、石川町など、寅吉・和平の作品を捜す旅にすでに5回も行っているのですが。
さて、では、まだ見ていない和平の観音像、地蔵像、大黒像などを押さえておくか、ということで出かけたのですが、颱風が予想より早くやってきてしまい、終日雨に祟られるという最悪の状況での和平ツアーになりました。

諸楽山法性寺 子安観音像

子安観音
まだ見ていない作品は、主に古殿町北部や石川町南東部(鮫川町近辺)などで、他の作品群がある石川町西部から相当離れているため、いつもそこまで行く前に日没になってしまうんですね。今回はいつもとは逆側、つまりいわき側から入ることにしました。
磐越道いわき三和ICで降りて、古殿町方面へ。すでに昼近くになっており、三和ICを降りた後は、古峰神社、浄願寺(三輪町中三坂)など、いくつか神社や寺をチェックしましたが、和平作品は見あたらず。
新発見がないまま、最初のチェックポイント、諸楽山法性寺へ。
ここには和平が昭和27年に作った子安観音像があるはずです。
ありました。
子安観音像 子安観音像の銘
昭和27年というと、和平はもう70歳になっています。孫の登・和喜の二人が弟子として石工仕事を始めており、この観音像を建てるのにも二人は手伝っていたそうです。
和喜氏の話では、本堂に3日間、石組み石工なども含めて4~5人で寝泊りして立てたとか。
優しい顔をしていますね。
■Data:諸楽山法性寺 子安観音像(福島県石川郡平田村小平)
ο建立年月・昭和27(1952)年ο石工・沢田村沢井 石工 小林和平
ο撮影年月日・2004年10月8日。


石川町中田 稲荷神社の大黒像

作者不詳の大黒像
このへんでは大黒像をよく見かけます。
大黒は言わずと知れた七福神のひとり。地域によっては、他の6福神より格上に扱われることもあるようです。
七福神のうち、大黒と恵比寿は特に人気があり、大黒は豊作の神、福の神として農民や一般庶民の信仰を広く集め、恵比寿は商売繁盛の神として商人に人気があったようです。
大黒像は、ゆったりした頭巾、左肩に大きな袋を背負い、右手に打出の小槌。像になるときは台座は米俵というのが定番の意匠。家庭内では台所に置かれることが多く、ねずみが神使とされているという説もあり。
神使がネズミなので、甲子(きのえね)祭りとも密接な関係を持ち、子年の子の日に大黒を祭る風習もあるとか。
石川郡エリアでは、とにかくあちこちで大黒像を見かけます。上の写真は、若宮八幡(石川町中田矢造)の入り口に置かれた大黒像。残念ながら顔は損傷し、作者不詳
稲荷神社の大黒像
吉田さんから、石川町中田の稲荷神社に和平の大黒像があったという知らせを受けていたので、その稲荷神社を探しました。
愛用している県別マップルでは、このへんは6万分の1になってしまっていて、神社マークもずいぶん省略されています。
カーナビの地図では道さえろくに載っていないありさま。今までの経験から、マピオンの地図の最大縮尺から2番目の縮尺の地図にいちばん多く神社マークが出てくるので、石川町周辺の地図を片っ端から画像に保存し、それを縦横に順番に連結し、縮小してA4に印刷したものを縦横にのり付けして大きな地図を作るという苦心の作業の末、今まで見つけられなかった小さな神社もいくつか見当がつくように。
めざす稲荷神社は楽に見つかりました。
大黒像2つ  大黒像  大黒像の銘
これが和平の大黒。他にもいくつか大黒を彫っていますが、多分、いちばん大きい部類に入るでしょう。銘に「彫刻師」と刻んでいるところからも、自信作であることがうかがえます。和平は師匠の寅吉の影響を受けてか、自信作には「彫刻師 小林和平」、そこそこの作には「石工 小林和平」と刻んでいるようです。
初めて「彫刻師」と刻んだのは、多分、古殿八幡神社の狛犬でしょう。昭和7年。その後の作品で、彫刻師と刻んだ作品はあまりありません。
しかし、はっきり言って、顔は趣味じゃないですねえ。うまいのだろうけれど、やっぱり和平も寅吉も、動物を彫ったほうがずっと芸術性を発揮できたようです。
しかし、細部の彫り方は、さすがに和平と思わせます。横から見たときのシルエットや、衣服の切れ込み(あるいは肩に担いだ袋の口?)のような脇のカットのデザインなど、見れば見るほど面白い作りです。
奉納者は「甲子大黒講」というグループのようです。大黒信仰のグループ、もしくは甲子年生まれの同窓会でしょうか。
 
この和平大黒の隣には、もっと古い大黒像があります。大黒のようでもあり福禄寿のようでもあり……。
この石像、もしかしたら寅吉かもしれません。いい顔をしています。台座が半分以上土に埋もれてしまい、作者名や建立年が確認できませんでした。晴れていたらスコップを持ちだして横の土をどけてみるくらいのことはしたかもしれませんが、なにせ雨がじゃんじゃん降っている中の写真撮影でしたので、そこまで根性が出ませんでした。
■Data:福恵稲荷神社(石川郡石川町中田大塚)
ο建立年月・明治27年7月甲子の日
ο石工 沢田村彫刻師 小林和平  ο撮影年月日・2004年10月8日。


ところで、この神社は稲荷神社ですから、本来の神使はキツネです。
参道脇にはキツネがいましたが、台座(新日本昭和22年2月と刻まれている)の上に乗っているのは新しいキツネで、本来乗っていたキツネや壊れた先代キツネが無惨にも参道脇に捨てられていました。合掌。
    捨てられたキツネ先代
また、この大黒像を始め、キツネや灯籠の奉納者には「瀬谷」という姓が目立つのですが、この地域には瀬谷姓の家が多いようです。少し離れた神社のそばにあった工務店?には、こんな鬼瓦や看板が。↓
   
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