エッセイ 「狛犬」という趣味

 このコーナーの文章は、『生衛ジャーナル』(編集・発行 財団法人全国生活衛生営業指導センター)の2002年7月号から2003年5月号まで連載されていた『狛犬鑑定団が行く』というエッセイを元に、若干書き直したものです。 

第1回 「狛犬」という趣味

 唐突に「狛犬」である。
 なぜ狛犬なのか? 狛犬のどこが面白いのか? ほとんどのかたは「?」の連続でありましょうが、それは認識があま〜い。
 先日、日経新聞文化部の記者さんに「今度狛犬写真展があるんですが……」と話したところ「狛犬ですかぁ。最近はブームになっているし、珍しくないですしねえ」と言われてしまった。
 狛犬ブーム、知っていますか? 知らないでしょうねえ。
 狛犬の魅力は、さりげなく、けなげで、しかしアートであるという点ですね。そこに惹かれて、狛犬の虜になった人たちが集まる「日本参道狛犬研究会」(通称・狛研。会長は三遊亭円丈師匠)なる全国組織もあります。
 会員は百人を超え、隔月の例会にも常時数十人が集まり、どこそこの神社でこんな狛犬を見つけただの、この石工は関東で三本の指に入るだろうだのと、わいわいやっています。
 狛犬が趣味などというと、じいさんの集まりかと思われがちですが、最年少は小学校五年生。中学生もいますし、若い女性だっているのですよ。
 狛犬の魅力に目覚めていない人たちが持っている誤解の一つに、「狛犬なんてみんな同じでしょ」というのがあります。と〜んでもない。狛犬ほど多種多様な造形様式を誇るものはありません。
 狛犬の原型は「獅子」ですが、そもそも、明治以前の日本人はライオンというものを見たことがありません。ですから、獅子と言われても空想で造るしかなく、実にユニークな造形物がたくさん誕生しました。これが狛犬の魅力の一つです。
 ただ、昭和以降、岡崎市の石材店密集地区で「岡崎現代型」と呼ばれる狛犬が発明されてからは、同じデザインの狛犬が量産され、狛犬の没個性化が加速しました。ですから、狛犬ウォッチャーが探し求めるのは、量産狛犬以外の、個性的な狛犬、あるいは年代の古い狛犬です。
 狛犬の研究は今まで真剣にされてきたことがないので、誰もがパイオニアになれる可能性を持っているという魅力もあります。形を細かく分類しようと試みる人もいれば、写真の被写体として追いかける人もいます。
 現在、狛研には都内のほぼすべての狛犬データがありますが、地方の神社には、まだまだ知られていない狛犬がたくさん眠っています。石造りの参道狛犬が一般に奉納されるようになったのは江戸時代からですから、台座に江戸の年号が刻まれている狛犬は、相当古い狛犬に属します。例えば、天保○年という銘があれば、あの「天保の大飢饉」の頃に造られた狛犬なんだなあ……などと、感慨にふけることができます。
 今度、神社で狛犬を見かけたら、そのまま素通りせず、ぜひ台座を確認してみてください。あなたの町にも、江戸時代の狛犬がいるかもしれません。
盛岡天満宮 吽 盛岡天満宮 阿
写真 岩手県盛岡市新庄町。盛岡天満宮の狛犬。江戸期製作。昭和8年に台に乗せる。高畑源次郎作と伝えられる。石川啄木が「夏木立中の社の石馬も汗する日なり君をゆめみむ」と詠んだことで有名になったユニークな形の狛犬。
     
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