カメラを選ぶ



前項では、コンパクトデジカメは撮像素子が極端に小さいため、搭載しているレンズの焦点距離が短く、背景をぼかした写真は撮れないということを書きました。
それでも、大きくて重いカメラは嫌だというかたは多いと思います。私も根性がないのでそうです。
最初から撮りたい狛犬がいると分かっている神社に行くならしっかり準備もしますが、普段の散歩や通勤の途中で偶然すごい狛犬を見つけてしまうことだってあります。そんなときにまで重いカメラを持ち歩くことはできません。

そこでまずはコンパクト機の選び方を考えてみましょう。

とにかく明るいレンズのカメラを選べ

私が今までいちばん長くつき合ったコンパクトカメラはオリンパスのXZ-10です。
このカメラはF1.8-2.7という、コンパクト機としてはトップクラスの明るいレンズを搭載しています。
レンズのズーム比は35mm換算で26~130mmですが、実際には4.7mm~23.5mmです。しかし、望遠端でもF2.7を保持しているコンパクト機というのはほとんど例がありません。
昼でも暗い境内の神社は多いですから、レンズが明るいというのは最重要条件です。
選ぶ目安は広角端でF2.0より明るいレンズ(数値が小さいほど明るい)。最低でもF2.8は確保したいところです。
安価なコンパクト機、薄型モデルの多くはレンズがF3.5~くらいですので、この時点で不合格です。

XZ-10はいいカメラですが、残念ながら製造終了になり、後継機種も出ていません。オリンパスはもうコンパクト機を作りませんし、程度のいい中古が安く出ていれば買って損はないと思います。

撮像素子は大きいほど、解像度は低いほどよい

レンズ性能の次に重視すべきは撮像素子の性能です。
撮像素子は大きいほどきれいな写真が撮れます。
しかし、撮像素子が大きくなれば組み合わせるレンズも大きくなるため、カメラ自体が大きく重くなります。また、ズーム比を稼ぐのも難しくなります。

拙著『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)でも書きましたが、一般的な使用では撮像素子の解像度は600万画素もあれば十分なのです。しかし、現在売られているデジカメは最低でも1200万画素はあります。コンパクト機で解像度がこれ以上あるモデルは、1画素あたりの面積(画素ピッチ)が小さくなりすぎて明暗差や色の多様性がしっかり記録できません。
いちばん買ってはいけないのは、撮像素子が小さくて解像度が高い(画素数が多い)コンパクト機です。そんなものを買うくらいならiPhoneの内蔵カメラでも十分でしょう。

SONY NEX-5R+標準ズームレンズ
1/80秒、F3.5、ISO 400、16.00 mm(24 mm相当)


オリンパス Stylus1
1/60秒、F2.8、ISO 160、6.00 mm(28 mm相当)


オリンパス XZ-10
1/80秒、F2.0、ISO 100、4.70 mm(26 mm相当)


上の3枚は、それぞれ、

SONYのミラーレス一眼 NEX-5R+標準ズームレンズ(F3.5-5.6)
オリンパスのレンズ一体型高級機 Stylus1(レンズは28-300mm相当で全域F2.8)

オリンパスのコンパクト機 XZ-10(レンズは26~130mm相当、F1.8-2.7)

で同じ位置から同じ時間に同じものを広角端で撮っています。
パッと見た感じ、あまり差は感じないと思います。XZ-10は実売価格が1万円台のお買い得モデルですが、何倍もの価格差があるNEX-5Rと比べても明らかな弱点は見あたりません。
レンズが明るいためにISO値も低く、シャッターを速く切れるという利点で、撮像素子が何倍も大きなNEX-5Rに対抗できているためです。

では望遠端ではどうでしょうか。


XZ-10
1/160秒、F2.7、ISO 200、23.50 mm(130 mm相当)



NEX-5R + 標準ズーム
1/80秒、F5.6、ISO 1250、50.00 mm(75 mm相当)


NEX-5R + 50mm/F1.8
1/400秒、F1.8、ISO 1000、50.00 mm(75 mm相当)

XZ-10でも、望遠端で寄って撮るとそこそこ背景がぼけることが分かります。望遠端で撮ってもF2.7なので、ISO値も200でおさえ、シャッター速度は1/160秒を確保できています。

逆に、NEX-5RもF3.5-5.6の標準ズームですと、望遠端はF5.6と暗いため、ISO値は1250まで上がり、シャッター速度は1/80秒と、かなり気をつけないと手ぶれしそうな速度です。背景のぼけも大したことはありません。しかし、撮像素子の大きさは色調やダイナミックレンジ(明暗の階調の細かさ)に大きく影響するため、撮像素子が小さいXZ-10に比べると石の質感などがぐっといい感じになっています。

3枚目はNEX-5Rに単焦点レンズ50mm/F1.8をつけて開放で撮ったものです。大きな撮像素子に明るい単焦点レンズですから、鬼に金棒。さすがに背景のぼけ具合も石の質感もいちばんいい感じですね。
邪魔な足場鉄骨もこれだけぼけてくれればほとんど気になりません。

これが撮像素子が小さいコンパクト機と撮像素子の大きなカメラとの違いです。

レンズ交換式カメラでも、暗いズームレンズ(標準キットについくるのはたいていF3.5-5.6)では背景のぼけはあまり期待できませんし、暗い境内では明るいレンズのコンパクト機よりも失敗写真の量産になりかねません。

というわけで、気合いを入れて大きなカメラを持っていく場合でも、明るいレンズのコンパクト機はサブ機として欠かせません。家に帰ってきてじっくり見たら、高価なレンズ交換式カメラで撮った写真がみんな手ぶれしていて、明るいレンズのコンパクト機で撮った写真だけが使いものになった、ということは珍しくないのです。

レンズ交換式カメラを使う場合も、狛犬撮影ではズームレンズよりは明るい単焦点レンズのほうがきれいな写真になる確率が高くなります。初めて買うときはレンズの種類や費用までしっかり調べてから買わないと失敗します。

SONYが捨て去ったAマウント規格のレンズは現行のEマウント規格のレンズに比べて大幅に値崩れして取り引きされていますので、敢えて古いAマウントのカメラとレンズで安く揃えるという作戦もあるでしょう。
次のページでは、さらに具体例を挙げながら狛犬撮影術を極めていきます。
Aマウント機のSONY α77 Amazonで購入。古さは隠せないが、Aマウントレンズは安く入手できるので、こうした選択もある。


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