狛犬分類研究(1) 江戸と畿内(浪花)

 円丈分類に出てくる類別呼称では、「江戸」と「京」(あるいは「なにわ」)にあたります。
 円丈本には、江戸だけでも「江戸でぶっちょ」「江戸くちびる」「江戸たいら」「江戸尾立ち」「謎の江戸原」「江戸くずし」「江戸獅子山」「準江戸会津」「江戸犬」「江戸角」「江戸はじめ」「江戸招魂社系」「江戸唐草」「江戸ボタン」「江戸角尾立ち」……などなど、実に様々な分類?が出てくるのですが、そもそも「江戸」とはなんでしょうか?
 また円丈分類に出てくる「京」(なにわ)タイプとはどういうものでしょうか?
 関西の狛犬に関しては、小寺慶昭さんが非常に細かく調べていらっしゃいます。そこでは大阪狛犬の細かな分類や、大阪狛犬が京都に影響を与えたという流れが解説されています。
 そこでまず、一般の人にも分かりやすいよう、乱暴であることを承知の上で、最初に「江戸」と「畿内(浪花)」という大分類を試みてみます。(なお、ここでいう「浪花」タイプは、大阪だけでなく、京都・奈良などを含む畿内エリア全般をさしています。私は「浪花」という分類名称より「畿内」のほうがいいのではないかと思っています。)

 また、江戸タイプは最終的には阿吽ともに獅子の形になっていきますので「江戸獅子」、浪花は獅子・狛犬の違いをずっと守り続けていくので「浪花狛犬」と呼んで、大別することは可能だと思います。

 では、江戸と畿内の大きな違いを見ていきましょう。

頭部・顔の特徴

江戸
畿内
↑川崎市麻生区黒川・汁守神社の狛犬
(明治15年=1882年建立)
↑奈良県吉野町吉野神宮の裏門にいる狛犬
(建立年・未確認)

江戸
畿内
↑茨城県北茨城市花園神社の狛犬
(建立年・不明)
↑京都府宇治市宇治上神社の狛犬
(弘化2年=1845年建立)

 上の写真を見てください。大体、以下のような差がお分かりいただけると思います。
 

江戸:

 前髪&眉:カールしてほぼ中央分けのヘアスタイル。
 目:やや小さめで、楕円形。目玉の瞳は描かない場合が多い。
 耳:伏せ耳が基本。
 鼻:それほど大きさを強調しない。
 髭:顎髭があり、前髪に合わせてカールしている。
 唇:極端な二重にはならない。
 歯:あまり彫り込まないが、ある場合は犬型(犬歯状)が多い。左右二本の犬歯のみ彫り込むこともある。
 全体の形:やや平べったいが彫りは浅くない。犬などの獣の頭部に近い印象。吽型にも角のあるものはそれほど多くない。  

畿内:

 前髪&眉:前髪はほとんどなく、代わりに太い眉がある。
 目:おおきなぎょろ目。ほぼ正円形。目玉の瞳を描く場合が多い。
 耳:折れ耳、または横耳が基本。
 鼻:大きく胡座をかいた獅子鼻や団子鼻。
 髭:顎の真下にはなく、顎の両脇に瘤状に描かれる。
 唇:二重に縁取りする。
 歯:特に阿型は多くが歯をむき出しにしており、形状は人間型(入れ歯型・獅子頭型)が多い。
 全体の形:縦長で彫りが浅い。人面、鬼面に近い印象。また、本来の「獅子・狛犬」の形式を踏襲しているため、吽型の狛犬の頭部には角がある場合が多い。

身体全体の特徴

江戸

↑川崎市麻生区黒川・汁守神社の狛犬
(建立年・明治15年)
畿内

↑京都府長岡京市・長岡天満宮の狛犬
(建立年・弘化3年)


江戸

↑茨城県北茨城市・花園神社の狛犬
(建立年・不明)
畿内

↑京都府北桑田郡京北町辻・山国神社の狛犬
(建立年・明治40年)
 

江戸:

 たてがみ・体毛:長毛で流麗に流れる。
 尾:江戸後期からは下がって身体に巻くように密着。初期のものは尾が立っている。
 背中:猫背で、丸みのラインの美しさを強調。
 子獅子:阿吽合わせて、たいてい1~3頭付属している。
 姿勢:前脚を上げていたり、立ち上がっていたりするものもある。構図的に自由度が大きい。

 

畿内:

 たてがみ・体毛:らほつのように瘤状に短く巻いているものが多い。
 尾:団扇型が基本で直立、背中側に密着している。
 背中:ほぼ真っ直ぐ背筋を伸ばしている
 子獅子:いても1頭どまりであることが多い。
 姿勢:お座り(蹲踞)が基本で、あまり自由度はない。

歴史的考察


 なぜ近畿地方には破天荒な狛犬が少ないのでしょうか? 江戸時代のものも昭和のものも、みな似たような印象を与えます。近畿地方の人に「狛犬が趣味です」と言っても、「狛犬? みな同じやないの?」と切り替えされてしまいますが、それもある程度無理ないかもしれません。
 これはどうも、石産業の成り立ちに関係しているようです。
 江戸時代、大阪城下では、石工町が固定化し、石切場も比較的近くにあったそうです。こうした環境のもとで、石工たちは一か所に集まり、石細工製品をシステマティックに作っていきました。狛犬制作もそうしたギルド的な「制度」の中でパターン化してしまったようです。つまり、「狛犬とはこういうものである」という常識が確立され、代々、石工たちはその「常識」「パターン」を踏襲していったようです。
 近畿の狛犬には江戸期のものがまだ数多く残っており、細部の違いをよく見ていくと多くのバリエーションがあるのですが、パッと見た印象はそれほど違わないのです。近畿の石工たち、あるいは奉納者たちが破綻・異端を嫌ったのかもしれません。
 片や江戸では、石工の組織は火消しの組織のようにいくつかの組にわかれて腕を競い合い、石切場も江戸城下からは遠く離れていたので、石問屋と石工の集団も分かれていたそうです。また、風土としても、伝統と形式を重視する畿内に対して、新しいもの、より流麗なもの、豪華なもの、芸術的なものを作り出そうという「江戸っ子」の気風に支えられた華やかな文化がありました。
 江戸唐獅子の流れるような線はこうして生まれ、時代を追うごとに洗練されていったのでしょう。
 こうして考えていくと、「江戸」タイプの呼称は、あくまでも地域としての「江戸」、関西地方の固定化した狛犬文化に対しての、江戸っ子風俗的な流麗で華やかな狛犬文化という意味が強いということになります(もちろん江戸時代を中心に発達したという意味では時代をさしていると言っても間違いではないでしょうが)。
 畿内の狛犬の分類については、小寺慶昭さんの狛犬三部作(『狛犬学事始』『京都狛犬巡り』『大阪狛犬の謎』いずれもナカニシヤ出版)に詳しいのですが、特に3冊目の『大阪狛犬の謎』では、大阪府下の全狛犬データを元にした詳細な分類と考察を試みられておられます。相当マニアックな内容ですが、狛犬の分類に興味のあるかたにはお勧めいたします。

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