狛犬分類学

 狛犬の研究というと、形による分類に熱意を燃やす研究家が多いようです。
 しかし、現在のところ統一的な分類方法や名称が定まっていません。ここに紹介する分類法は、多くの先達研究家の説や命名を踏み台にした、おおまかなガイドラインと考えてください。


分類の指針


 狛犬の分類で悩むのは、何を基準にして分類していくのかということです。
 形によるものなのか、発祥地、製造地、分布地によるものなのか、年代によるものなのか、材料によるものなのか……。それらをごちゃごちゃにしてしまうと、非常に分かりにくくなっていきます。
 例えば、「江戸」という言葉を使うとき、それは「江戸時代」のことなのか、それとも地域としての「江戸」のことなのか?
 狛犬研究の大御所・三遊亭円丈師匠は、日本全国で見られる大量生産型狛犬のことを「昭和(しょうわ)」と呼んで、狛犬研究会会員を中心に名称を浸透させましたが、この「昭和」とは年代のことなのか、それとも「型が決まっていて大量生産される」狛犬全般のことなのか?
 円丈分類では、大正時代の狛犬も「昭和」に分類されたり「江戸」に分類されたりしていますから、どうも「昭和」や「江戸」は時代を指しているのではなさそうです。
 「江戸」を「江戸時代」ではなく、江戸という「地域」からつけた名称だとすれば、「昭和」は、やはり最初に大量生産された岡崎市にちなみ、「岡崎」としたほうが整合性があります。実際、「岡崎現代型」という呼称のほうが今では定着しているようです。
 そうした分類の基盤、項目、研究者への言葉の定着率などに留意しながら、私的な考察をしていこうと思います。

全体の形と出自による分類

 狛犬には、地域や制作年代により、おおまかな類似点があります。もっとも分かりやすい分類は、こうした類似点でくくっていく方法でしょう。

地域による形状類似

●越前禿 ●畿内(浪花) ●江戸 ●出雲(丹後) ●尾道玉乗り ●佐渡兜 ……など

由来やコピー元の共通による形状類似

●渡来中国獅子 ●護国 ●神殿狛犬型 ●籠神社型 ●靖国神社型 ●東大寺型 ……など 

年代、材料と制作手法による定型化

●はじめ ●越前禿(材料が笏谷石) ●岡崎現代型(酒井孫兵衛が広めた) ●岡崎古代型 ●輸入ものに見られるいくつかのパターン……など

狛犬由来ではないもの

●狼 ●狐 ●和犬 (牛、鼠、兎、鶏……などは一応除いてみる)。
 この場合、狼、山犬、神犬などと呼ばれているものは同じものなのか、というような疑問も出てきます。
 稲荷神社の狐は「神使」で、「守護獣」としての狛犬とは違うというのが定説ですが、狛犬ネットでは狐や狼も狛犬と同等に扱っています。

属性による小分類

 大分類の下に、その狛犬の属性や設置方法などによって、小分類が可能です。

材料による分類

 ●石(火山岩系か深成岩系か砂岩系か。詳細分類としては、採石地名による固有名。小松石、来待石、大谷石、御影石、笏谷石……などの特定) ●木 ●ブロンズ ●焼き物(備前焼、美濃焼、瓦焼き……。陶工の手によるものと瓦工場の製作という分類も可能か?) ●セメント・コンクリート ●鋳鉄……など 

構図的分類

 ●両正面 ●両ひねり ●対面 ●混合型 ●獅子山

付属物による分類

 ●玉乗り ●玉抑え ●玉くわえ ●子持ち(組み伏せ、遊ばせ、授乳……) 

尾の形

 ●扇尾 ●炎尾 ●筒尾 ●獅子尾 ●滝(流水)尾
 また、尾が立っているか寝ているかという大分類。

目の形

 ●釣り目空豆型 ●釣り目半月型 ●丸目 ●垂れ目 ●小判目 ●光彩のある/なし……など

耳の形

 ●垂れ耳 ●立ち耳 ●横耳 ●耳なし

頭の形・髪型

 ●角あり/なし ●宝珠(擬宝珠) ●兜型 ●前分け ●尊結び ●たてがみ(ライオン型)……など



 とりあえずは、こんな分類用ガイドマップが作れるでしょう。
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